熱海の自然を愛する野鳥研究家
室伏友三さん
海と山に囲まれた熱海は、豊かな自然の宝庫。自然の美しさは、変わらない熱海の魅力の一つです。
今回は熱海の自然を愛する野鳥研究家の室伏友三さんに、熱海の山を案内していただきながらお話を伺いました。
熱海は自然の宝庫
神奈川県湯河原町生まれの室伏さん。
教諭として勤めながら野鳥の研究を進め、国際オシドリ協会会長、公益財団法人日本鳥類保護連盟専務理事、環境省トキ野生復帰専門家会議委員を務めてきました。
現在は環境省自然公園指導員、ネイチャーガイドとしても活躍し、特に地元の熱海や湯河原、富士、箱根、伊豆で、山の歩き方、楽しみ方を伝え、自然を守る活動をしています。
「640種類もいると言われている野鳥のうち、熱海では実に4割もの野鳥を観察することができます。熱海は野鳥が生息できる豊かな自然環境があるのです。まちの賑わいばかりが話題になっていますが、自然の豊かさに目を向けていただくと、新しい発見がありますよ。」
姫の沢公園から十国峠へ
今回、室伏さんにご案内いただいたのは、熱海と函南町にまたがる十国峠。山頂からは富士山を眺めることができ、伊豆半島や房総半島、三浦半島も見渡せます。ロープウェイで簡単に登ることはできますが、ハイキングをすれば絶景の喜びもひとしお。姫の沢公園からアスレチックコースを通り、日金山、そして十国峠山頂まで、室伏さんと歩きました。
ハイキングのスタートは姫の沢公園。緑に囲まれた気持ちの良い公園です。山道を歩きながら鳥のさえずりがすると「“フィーフィー”と鳴いているのがウソという鳥。草むらの中で“チャッチャッ”と鳴いているのが、ウグイス。ウグイスが“ホーホケキョ”と鳴くのは繁殖期の春だけなんですよ。シジュウカラ、メジロ、ヤマガラもよく見られます」と解説をしてくれる室伏さん。よくどれも似たようだと思っていた鳴き声も、よく聞いてみると違いがあることが分かります。
「鳥は半島を渡りますから、伊豆半島には多くの渡り鳥がやってきます。特に春と秋は渡り鳥のハイシーズン。フクロウやタカの仲間の猛禽類が、山の尾根を渡っていきます。熱海は“国際観光文化都市”と言われますが、人だけでなく、鳥も国際色豊か。北極圏シベリアや中央アジアから鳥が渡ってきます」
歩きながら見つけた植物も解説。「園内で見られる植物は約600種もあります。野生のアジサイだけでも、コアジサイやタマアジサイなどがあって5月から11月まで楽しめます。また、針葉樹林と落葉樹、どちらもあって、秋は紅葉もきれいですよ」
草花や野鳥の話を聞きながら約2キロ、およそ1時間半で十国峠へ到着。登りきると、目の前に富士山の絶景が広がります! 登ったご褒美に絶景をいただき、感動です。
自然を学びながら山や海辺を歩く
熱海はまち中も坂道が多いことからも分かる通り、山はすぐそば。賑わうまち中から少し山の手に行けば、初心者でも楽しめるハイキングコースがあります。また、アップダウンのない海沿いは歩きやすく、海を眺めながらの散歩に最適です。
「姫の沢公園から日金山を登り、十国峠まで行くこのハイキングコースは特にお勧めです。ハイキング初級の方でも歩きやすく、四季の植物を楽しみながら歩くことができます。それから、十国峠から岩戸山のコースもお勧めです。十国峠を見下ろし、稜線を歩いて、1時間ほどの山歩きが楽しめます。さらにその先に足を延ばせば、七尾峠を通り、伊豆山神社まで行くこともできます」
十国峠とは別の日に、室伏さんに案内していただいたのは、熱海の西南にある玄岳。路線バスで「玄岳ハイクコース入口」のバス停で降り、住宅街をしばらく歩いたところにある入口から、山に入ります。玄岳の標高は、799.2m。晴れていれば山頂から富士山、愛鷹山、南アルプス、初島、大島など、360度のパノラマが満喫できます。また、玄岳山頂からさらに20分程歩いていく“氷ヶ池”も絶景スポットです。
「玄岳への登山道は季節によっては身長以上の笹が伸びていて、大変歩きにくいのですが、春や秋に草が刈られた後であれば、いいハイキングができます。氷ヶ池は、昔は氷をそこから切り出したことから氷が池の名前がついたそうですが、今はうっすらと波打ち際に氷が張る程度です。ここには、ミコアイサという小さなカモがやってくることもあります。貴重な鳥を観ることができて、眺望もいい場所です」
多賀・網代の海沿いを歩く
山だけでなく「海辺も自然観察に最適」と室伏さんは教えてくれました。「多賀や網代の海沿いは、海鳥を見る絶好のスポット。北極海からきた鳥を観ることができます。海鳥を観察する“シーバード・ウォッチング”愛好者にはお勧めです。また、多賀の鹿ヶ谷公園は桜、ツツジ、アジサイなど、四季の花が観賞できます。また、約50種類もの野鳥が飛来してくるので、バードウォッチングもできます」
海沿いをのんびり歩くのもよし。網代駅から1時間半ほどで坂道を登り、鹿ヶ谷公園まで歩くのもよし。多賀・網代では山とはまた違うウォーキングの楽しみが見つかりそうです。
熱海の自然の魅力を伝えたい
野鳥の研究を続けてきた室伏さん。丁寧に描いた鳥や魚の細密画も多数。熱海市泉と湯河原の境にある千歳川沿いには、絵に解説を加えた絵看板が並んでいて、野鳥や魚の観察が楽しめるようになっています。
熱海の豊かな自然を愛する室伏さん。今、自然環境が変化していることを懸念しています。
「治山事業が疎かになり、山が放置された結果、特にナラの仲間の樹木が害虫の被害にあっていて、森が斑点状に枯れています。このままでは紅葉も見られなくなってしまうでしょう。鹿やイノシシが、悪い意味で増えてしまっているのも問題です。彼らはどんどん町に下りてきています。台湾リスやアライグマといった外来種も増えています。山をもっと手入れして、守っていかなければなりません。みなさんにまずは山に親しんでいただき、興味を持っていただくことが大切だと思っていますので、私はネイチャーガイドとして、自然の魅力、歩き方、楽しみ方を伝えています。
熱海には手軽に歩けるコースがありますので、ぜひ歩いてみてください。ガイドを呼んでいただければ、さらに山歩きの楽しさが深まります。一緒に歩くと、鳥や植物、動物のことなど、歩きながらたくさんのことを知ることができて、とても勉強になります。健康維持になるだけでなく、学習にもなる。健康と学習が同時にできるので、年配の方にもお勧めです。体を動かした後は温泉とグルメもありますから。熱海は自然を楽しむのに最適な環境にあります。
豊かな自然環境は、熱海の財産です。多様な自然に身を置いて、歩いて、熱海を楽しんでください」